職人のまちでもある、船岡山エリア。
古くより、ものづくりのまちとしての風土が育まれてきたこのエリアでは、歴史ある伝統工芸の工房はもちろん、近年では、新感覚のギャラリーや若手作家のアトリエなども続々と誕生しています。船岡山エリアの個性豊かな工房をめぐって、ものづくりの文化にふれてみませんか?
第4回目は、「平安堂 京都」をご紹介します。
やがて土に還る自然素材で“壊れから生まれる美”を楽しむ。「平安堂 京都」で金継ぎ体験
「金継ぎ」とは、欠けたり割れたりした器に、漆と金粉を使って“新しい景色”と新たな価値を与える伝統技法です。歴史のはじまりは、茶の湯の文化が生まれ、発展した室町時代。茶人たちは、壊れた愛用の茶碗を、ただ直すのではなくあえて傷を目立たせることで、唯一無二のものに昇華させました。侘びさびの精神にもとづいた金継ぎは、“壊れの美”または“破調の美”と称され、傷が極力目立たないように隠す西洋のスタイルとは真逆のものです。
大徳寺の東向かいに構える「平安堂 京都」は、そんな金継ぎの技法を継承し、漆芸修復を行なう工房です。
金継ぎを施したうつわを販売するほか、事前予約制でワークショップも行なっています。
おすすめは、工程のハイライトとなる「金蒔き」の装飾を行ない、映像やスライドなどで金継ぎを総合的に学ぶ「古典金継ぎ体験」です(1名1万9800円。所要時間90~120分)。
代表を務めるのは、半世紀にわたり、文化財、神社仏閣、仏像、古美術品などの漆芸修復に携わってきた清川廣樹さん。今回は、清川さんに師事し、店の番頭を担う鵜養慶太さんに「古典金継ぎ体験」の流れを教えていただきました。
金継ぎには、「やがて土に還る」ことを前提に、国産の自然素材のみを使用しています。たとえば漆は、現代では安価で大量に仕入れられる海外産が主流ですが、平安堂では、希少で高価ながら純度も質も高い日本産の漆を使うことにこだわっています。「劣化し、土に還ることのない化学素材を使用しないからこそ、文化財や美術品が何百年と受け継がれてきたのです」。
欠けたうつわに黒漆を塗るまでは、職人さんが事前に準備をしておいてくれます。体験では、金継ぎに欠かせない弁柄(べんがら)漆の準備から。和紙で濾して漆に付着した小さなゴミやチリを取り除き、漆の純度を高めます。
金の発色を良くするため、黒漆の上に直接金をのせるのではなく、赤色の弁柄漆を重ねます。接着効果もあり、一石二鳥。ここまでの作業を終えたら、梅雨の時期の気温と湿度を再現した室(むろ)で20分ほど乾燥させます。
室で表面を少し乾したら、いよいよ漆の上に金を蒔きます。金粉をつけた筆を指で軽くたたくと、金粉がほのかに煌めきながら漆の上にふわりふわりと舞い落ちていき、とても幻想的。その後、筆の先で余分な金粉をやさしく払います。
金粉をのせた部分を真綿(シルク)で磨くと次第に艶がでてきます。
ふたたび室で乾燥させ、職人がもうひと手間かけたら完成。あえて黒漆の部分を残したり、漆を塗る形を工夫したりすることで、世界にひとつだけの味わいのある作品が出来上がります。
便利さが加速していく現代。モノや自然を慈しむ金継ぎを通して日本古来の精神にふれることで、本当の豊かさとは何かを考える貴重な機会となりました。
平安堂 京都
電 075-334-5012
営 10:00~18:00
休 水曜
所 京都市北区紫野門前町14
交 市バス停「大徳寺前」から徒歩3分
P なし
平安堂 京都ホームページ