毎回、その道のプロフェッショナルの方や地域にお住いの方などに、船岡山とその周辺の魅力を教えていただく連載「船岡山と私」。
第3回目は、【気象予報士の観光ガイド】吉村晋弥さんに「船岡山と天気」をテーマにご紹介いただきます。
【吉村晋弥さんのプロフィール】
第3回「船岡山と天気」~気象予報士の観光ガイド:吉村 晋弥さん編~
船岡山と私の出会いは、まだ学生だった19歳の頃でした。山の近くに引っ越してきたその日に、家族で船岡山の北にあった飲食店に入ったことを思い出します。しばらく後に、歩いて山頂を目指すと案外簡単に登れたこと、京都を一望できたことが印象に残っています。
船岡山は標高約112m、周囲と比べると40mほど高い山です。平安京の朱雀大路の真北に位置し、風水で東西南北を守護する霊獣のうち北の「玄武」に当たる地とされ、都を創建した桓武天皇が船岡山に登って見定めたとの伝承もあります。
現在でも山頂付近からは南への眺望が素晴らしく、空気が澄んだ日には、希に京都はおろか遥か彼方に近畿最高峰の八経ヶ岳(はっきょうがたけ:1915m)など、100㎞近く離れた大峯山脈を望むことができます。大峯山脈は、修験者の道として吉野と熊野とを結ぶ険しい大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)が通ることで知られ、遠く浄土の地とされた熊野の地は平安の昔から都の皇族・貴族も訪ねた地でした。
熊野へと連なる山々を、京都から自らの目で望めるというのは現代人の私であっても感慨深く、古の人々はかの地へのあこがれを持って船岡山から南を眺めていたのではないかと想像が膨らみます。
船岡山から近畿南部までの眺望が開けるのは、湿度が低く空気が澄んで、塵が少なくなる日です。具体的には冬場や秋の移動性高気圧が大陸から張り出し、北寄りの風が吹く際となるでしょう。
一方、建勲神社などからは、東方面への眺めも見事。個人的には2022年の初日の出を建勲神社から望みました。大晦日から積もった雪で気象台では2㎝の積雪を観測。新年の朝日が銀世界の京都の街と境内を照らしていく様子は格別で、大いに感動させていただきました。
建勲神社の入り口からは、雄大な比叡山や雪に覆われた東山の「大」の字も厳かに見え、特別感のある元日を迎えることができました。
船岡山は、8月16日夜に灯される5山6つの送り火のうち「鳥居形」を除く5つの炎が見られる人気スポットで、特に「左大文字」がよく見えます。「船形」は一部が欠けるためご注意を。複数の送り火を見る場合は、暗い山中を移動しながら眺めることになります。懐中電灯を持参し、事前の下見を行うなど、足元には十分にお気を付けください。
アクセスが良く、気軽に抜群の眺めを楽しめる船岡山。四季折々に京都の街を眺めながら、新たな発見ができる場所だと思います。