毎回、その道のプロフェッショナルの方や地域にお住いの方などに、船岡山とその周辺の魅力を教えていただく連載「船岡山と私」。
第4回目は、【森の案内人】三浦豊さんに「船岡山と自然」をテーマにご紹介いただきます。
【三浦豊さんのプロフィール】
第4回「船岡山と自然」~森の案内人:三浦 豊さん編~
京都の街なかに鎮座をしている船岡山は、山頂からの展望がすばらしい。足元を見ると、チャートの岩盤に大いなる存在感を感じる。神格化されて注連縄が巻かれていた時代もあったことだろう。今は周囲に柵も案内板もなく、かえってそれが趣を増しているような気がする。
山頂付近には、4月中旬頃になると淡いピンク色を帯びた花を咲かせる野生のツツジ、黐躑躅(もちつつじ)がいたる所に生えている。この黐躑躅は冬から春にかけても興味深い姿を見せてくれる。紅葉といえば晩秋の風物詩と思われがちだが、この黐躑躅は、なんと年が明けた真冬に葉を色づかせていることが多々あるのだ。その色づき方は味わい深く、赤や黄、紫やオレンジ色など様々で、中には紅葉をしないで緑の葉のまま越冬をして春を迎える個体までいる。
このように晩秋から春にかけて紅葉をしたり常緑だったりする木のことを半常緑樹といって、日本の在来種の中でも珍しい属性となっている。
「冬でも葉を茂らせるかどうか?」これは木にとって重要なことだ。冬は極寒となる高山や北日本では、秋に紅葉して葉を落とすことが生きていく上で有利となり、一年を通じて比較的温暖な南西諸島は、冬でも葉を茂らせる常緑樹ばかりとなる。地球規模で起こっていると声高に叫ばれている温暖化がこのまま進行をすると、京都には常緑樹ばかりが生えるようになるかもしれない。一方で氷河期がいつ到来してもおかしくないと主張する識者も多く、近未来の京都市北区の気候はどうなるのか、本当のところは誰も分からないと思う。
そこへくると半常緑樹の黐躑躅は、これから温暖化が進行しても氷河期が到来しても、どちらでもスムーズに適応をすることができる。曖昧な生き方の好例だ。
船岡山に生えている魅力的な植物は無数にいるが、秋に登る時の楽しみは、小々坊(しゃしゃんぼ)という木に会いにいくことだ。この木は11月になると直径4mmくらいの黒い実を実らせて、それは甘酸っぱくて美味しい。船岡山で採取をするのはおそらく禁止されているので、是非ご賞味を!とは言えないが、僕はこの木の実が大好きで自宅の庭に植えたくらいだ。
じつはあまり知られていないが、小々坊は日本に自生をしているブルーベリーで、日本には野生のブルーベリーがなんと10種類以上も自生をしている。年が明けて2024年になり、底冷えのする1月下旬に船岡山へ登った時、山頂に生えていた小々坊の実がまだ残っていた。こんなに美味しい実がまだ残っているなんて。
京都に住んでいる鳥たちは、僕たちが思っている以上にグルメなのかもしれない。